7月14日、京都大学病院の市民公開講座に参加して参りました。
プログラムは「乳がんについて」「乳がんの画像診断」「乳がんの治療について」「乳がんのホルモン治療について」でした。
初めに、京都府立医科大学内分泌乳腺外科の田口哲也先生の「乳がんについて」のお話でした。乳がんは、乳腺にできる悪性腫瘍です。日本の場合、2割位が非浸潤性8割位が浸潤性で40代に多いとされていますが、60代の罹患率も増えています。日本に比べると、欧米の乳がんの罹患率は4倍~5倍位高いといわれます。
しかし、欧米の死亡率は逆に下がっています。先進国で死亡率が増えているのは日本だけです。そこには、欧米に比べて乳がん検診率の低さ、乳がん手術後の補助療法(ホルモン療法や抗がん剤治療)の拒否が大きく関わっていると考えられています。予防の観点から考えられることは、家族性遺伝の遺伝子がすでに発見されています。BRCA-1とBRCA-2に変異があれば、80%以上の確率で乳がんになるといわれています。しかし、日本国内では遺伝子検査の保険適用は無く実費となり、京都大学病院で約20万円位かかるようです。また、遺伝子検査後の患者さんのフォローや倫理面での問題など病院側の体制作りが進まず、検査のできる病院が少ないのが現状です。また、日本ではできませんがホルモン薬(タモキシフェンン)を予防的に投与すると約半数の人の発症が防げるようです。
何よりも、大事なことは定期的な検診を受ける事です。また、マンモグラフィーは若年層では乳腺が多く全体的に白く映ることから見落としが多く必ずエコーと合わせて検査を行うことも重要となります。発見されれば早期治療を受けることで乳がんを根治できる確立が高くなります。
続いて、京都大学医学部付属病院放射線科の金尾昌太郎先生の「乳がんの画像診断」のお話でした。
乳がんの画像診断は主に乳房の奥にある物の診断に用いられます。細胞を取り出して診断する病理診断よりも精度は劣ります。画像診断で代表的なマンモグラフィーやエコーよりもさらに精度の高いものが乳房MRIです。検査は、造影剤を使い20分~30分位の時間を要します。また、造影剤を使うためにアレルギーや腎機能障害の副作用が出る事もありますが、5ミリ以上の腫瘍の検出感度は100%に近いとされています。
続いて、京都大学医学部付属病院乳腺外科の戸井雅和先生の「乳がんの治療について」のお話でした。
乳がんは一人、一人全てが違います。特に増殖速度と腫瘍の性格が重要となります。腫瘍の大きさが2センチ以下の場合、基本は手術となります。術後の治療は放射線治療、ホルモン療法、抗がん剤治療の中から必要な治療が選択されます。5センチ以上になると、手術の選択はほとんど無く抗がん剤治療が第一選択肢となります。近年では、サブタイプ分類といわれる分類が行われるようになりました。分子学的に細胞を分類してどのような治療が適しているか事前に判断して治療を行うことができるようになりました。ルミナールA,ルミナールB、ルミナールHER2、HER2、トリプルナガティブに分けられます。
細胞分類ができる事により、近年では手術前治療が多く行われるようになりました。手術前に腫瘍を小さくできる事と、術後の薬物治療の効果が確認できるメリットがあります。また、乳がん原発でハーセプチン+ラパチニブ+タキサン系の組み合わせでの臨床試験も始まっているそうです。
最後に、京都大学医学部付属病院乳腺外科の杉江知治先生の「乳がんのホルモン治療について」のお話でした。
ホルモン治療は、組織検査で感受性が陽性反応のある方のみに適応となります。エストロゲン受容体とプロゲステロン受容体が各1%以上で陽性となります。1%以下は、陰性となりホルモン治療に対応不可となります。ホルモン治療は、薬を使ってエストロゲンの分泌や合成を抑える治療です。閉経前と閉経後では、使用する薬が違います。閉経前は、エストロゲンの分泌を抑えるLH-RHアゴニストのゾラデックス、リュ-プリン、閉経後はエストロゲンの合成を阻害するアロマターゼ阻害薬のアロマシン、アリミデックスが使われます。
また、エストロゲンの働きを阻害する抗エストロゲン剤のフェマ-ラ、ノルバデックス、フェアストンは閉経前、閉経後どちらでも用いられています。