10月9日大阪府立成人病センターの公開講座に参加して参りました。今回は、「前立腺がん治療の新展開」でした。
初めに、成人病センター泌尿器科主任部長の西村和郎先生の前立腺がんの「ロボット支援手術」のお話でした。近年、急速に普及してきた手術支援ロボット「ダビンチ」の特徴や利点について、手術中の動画を交え詳しく説明がありました。
前立腺がん治療は病期(ステージ)により手術、放射線、内分泌療法、PSA監視療法のいずれか、または組み合わせで治療します。転移のない早期がんでは、前立腺全摘除術が第一選択肢となることがあります。手術方法は開腹手術、小切開手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術があります。手術適応の目安は限局期(T1b~T2)で期待余命が10年以上(約75歳まで)、全身状態が良好なこと、脳疾患、心疾患のないことが目安となります。
従来の開腹手術に比べ、手術支援ロボットを使うことにより尿道膀胱吻合不全、尿失禁、性機能障害などが大幅に減少し、より確実で低侵襲な手術が可能となりました。
ロボット支援手術の利点は
- 狭い個所など、自由に見たいところが見える。(高解像度の3D)
- 人の目が届きにくい個所でも正確に縫合ができる。
- 出血量が少ない。
- 神経や筋肉の損傷が少ない。
- 術後の痛みが軽い。
現在、日本国内で約60台のダビンチが導入され、2012年4月に保険適用となった前立腺がん以外でも、先進医療としてロボット支援手術が行われています。今後、子宮適出術など幅広く手術で保険適応され、最終的にはロボット主導での手術になり人がロボットを支援するようになるそうです。
続いて、成人病センター泌尿器科副部長の垣本健一先生の前立腺がんの「ホルモン療法」についてお話がありました。
前立腺がんの治療は、早期には局所的治療(手術、放射線)、進行すると全身的治療(ホルモン療法)が主体となります。治療法を決める重要な要素としてがんの病期(進展度)、年齢、全身状態、合併症の有無、患者さんの希望などがあります。前立腺がんの発生と進行には、アンドロゲンという男性ホルモンの作用が深く関わっています。アンドロゲンを抑えることにより膳立腺がん細胞の増殖を抑制する全身的な治療法がホルモン療法(内分泌療法)です。ホルモン療法にも利点、欠点、副作用があります。
ホルモン療法の利点
- 幅広い病期で効果が期待できる。
- 転移がある状態でも80%近くに有効性がある。
- 他の治療法にくらべ合併症や侵襲が少ない。
ホルモン療法の欠点
- 抗がん剤や放射線療法のように、がん細胞を完全に殺してしまうわけではない
- 有効期間に限りがあり、一生効くというわけだはない、ただし10%の患者さんは10年以上効果のでることもある。
ホルモン療法の副作用
- 性欲の低下、勃起障害
- 筋力低下、皮下脂肪増大
- 骨密度低下、骨粗鬆症
- 貧血、心血管障害のリスク
前立腺がんに対するホルモン療法は幅広い病期に対応ができ高い効果が期待できます。いろいろな有害事象は見られますが重篤なものは少ないそうです。また、新規薬剤の導入も今後予定されています。ゴナックスは2012年10月から使用可能となりました。アビラテロン、MDV3100は現在治験中で結果がよければ近く使用可能となるようです。
最後に、成人病センター放射線治療科診療主任の小西浩司先生の前立腺がんの「強度変調放射線治療(IMRT)」についてのお話でした。
放射線治療は、19世紀末にX線やラジウムが発見されがん治療へ利用が始まりました。1952年にコバルト外部照射装置、直線加速器(リニアック)の開発が始まり、1990年に粒子線治療やIMRTの開発が始まり今に至っています。強度変調放射線治療(IMRT)は、放射線による直腸や膀胱の副作用が軽減でき 前立腺に対する線量を増加させることができる利点があります。
放射線治療は前立腺がん以外でも多く使われ手術と同等以上の効果を発揮できる治療方として進歩しています。