9月9日、大阪府立成人病センターの公開講座へ参加してまいりました。
今回は、「ここまで進歩した肺がんの診断と治療」というテーマで、4名の医師がそれぞれの専門の話をしてくださいました。
■呼吸器内科副部長 西野和美先生「進行肺がんに対する治療戦略について」
肺がんは非小細胞肺がん(80~85%)と小細胞肺がん(15~20%)の大きく2つに分けられ、非小細胞肺がんでは、さらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つの組織型に分類されます。肺がん治療では、これらの組織型と遺伝子変異の有無、そしてパフォーマンス・ステータス(患者さんの全身状態)で治療戦略が組まれます。
非小細胞がんの中でも約半分を占める肺腺がんの多くは、遺伝子の変異によっておこると言われています。その遺伝子をつきとめ、現在の肺がん治療に積極的に取り入れられているのが分子標的薬です。この分子標的薬は、それぞれの遺伝子変異に向かって攻撃をする薬なので、従来の抗がん剤に比べ、治療効果が高いだけでなく副作用も少ないと言われております。
しかし、副作用が少ないと言われている分子標的薬ですが、全くないというわけではありません。 特に非小細胞がんの中の40~50%の患者さんが陽性を示すEGFRの阻害剤であるイレッサやタルセバなどの分子標的薬による皮膚症状には悩まされる患者さんも多いとのことです。 そういった患者さんの負担を軽減させるためにも、主治医だけでなく、皮膚科医や看護師、薬剤師が協力・連携し合い、分子標的治療薬の皮膚障害をマネージメントして、生活の質(QOL)を保ちながら長く治療が継続できるようにサポート体制も徐々に整ってきているみたいです。
副作用の問題が解決したとしても、次に出てくるのは「薬剤耐性」の問題です。2次遺伝子変異や側副経路の活性化により、分子標的薬であっても約1年で耐性ができてしまい効果がなくなってきます。そういった分子標的薬の薬剤耐性を持ったがんに対しての新しい分子標的薬の研究開発も進んでいます。また、がん細胞と免疫細胞との関係に着目し、新たな治療薬の開発も進んでいます。
この約10年間で肺がんの治療は大きく変わってきましたが、これからの10年でさらに大きく良い方向に治療が変わっていくのではないかと思います。
■森ノ宮クリニック所長 高見元敞先生「PET検査で『想定外のがん』を見つける」
PET検査はがんの診断に欠かせないものになっております。とくに最近は、CTとの融合像が得られるPET/CTの普及により、診断の精度が飛躍的に向上してきました。PET/CTは、本来“がんの広がりや進行度(病期)”“再発や転移の有無”を知ることが目的でした。しかし、一度の検査で全身の状態を画像として把握できるので、全く予想もしなかった“想定外のがんの発見”をすることができ、この検査方法が登場してからは早期がんの発見率に大きな変化が出てきました。
病院を訪れる患者さんは、何らかの症状を訴えて来院されることが多く、医師はその症状に見合った検査に重点を置きます。最近の病院は各科ごとの専門分野に分かれているので、患者さんの訴えを裏付けるような病変を見つけて診断が確定すれば、その他の部位に対しての検査は極力省かれます。例えば、息苦しさを訴えた患者さんが訪れたので、肺の検査をしたところ肺がんが見つかったとしましょう。しかし、その患者さんが同時に大腸がんを併発していたとしても、ご本人が腹痛や出血などの自覚症状を訴えない限り大腸の内視鏡検査を行うことはありません。健康保険制度がある日本では、ある程度の成約があるため、病変に無関係な検査は原則として行われないからです。
しかし、がんは加齢とともに増える病気であり、高齢者では多臓器にまたがって、別々のがんが出来ていることも稀ではありません。また、がんという病気はかなり進行した状態にならないと症状が出てこないことが多いという、やっかいな病気なのです。
ここでPET/CT検査の話に戻りますが、現在はがんと診断されると、このPET/CT検査が不可欠になってきています。これにより、すでに発見されたがんの病期診断や再発・転移の有無のチェックにとどまらず、これまで発見され難かったような無症状のがんや、予想もしなかった転移がみつかるようになってきました。
がんを早期に発見することにより、治療の幅も大きく広がります。残念ながらまだ全ての施設で受けられる検査ではありませんが、医師や医療関係者がこのPET/CTの利点を理解し、積極的に行っていく必要があるのは確かです。
■呼吸器外科部長 岡見次郎先生「肺がんは切り取って治す!」
放射線療法には様々な治療法がありますが、今回は定位放射線治療、強度変調放射線治療、粒子線治療についてお話しいただきました。
まず、定位放射線治療(SBRT)とは、比較的小さな腫瘍に対して、正確な位置精度を保ちながら多方向からピンポイントで大線量の照射が短期間で行える放射線治療です。この方法によって、治療前と比べ、10ヵ月後には腫瘍の大きさもとても小さくなっていることがわかります。
次に、強度変調放射線治療(IMRT)についてでした。従来の方法だと、標的体積の外形に照射野を設定し、均一な強度で照射するので、正常組織も腫瘍と同様に高線量の放射線を受け、副作用も大きく出ていました。しかし、このIMRTを用い、照射野内の強度を変調することで、最適な線量分布を得て、正常組織へは非常に低い線量しか照射されません。IMRTにより、副作用の減少と腫瘍への線量を高めることができるので、治癒率向上の可能性が高くなりました。手島先生からの最後のお話しでもある粒子線治療は、従来のX線やガンマ線といった放射線治療とは違い、水素や炭素の原子核などの粒子を用いて行われる放射線治療です。
この粒子線治療は、少し大きめの早期例でも有効であり、SBRTよりさらに身体的負担が少ないと言われています。しかし、粒子線治療を行うには巨大な医療用具が必要になり、日本国内でも限られた施設でしかまだ受けることが出来ません。
今回は肺がんについてのお話しでしたが、PET/CTや放射線治療など、他の病気でも当てはまる内容でした。何かご不明点がございましたら、当会(0120-258-050)までお問い合わせください。